井上リベラリズムを撃て!

今日、早稲田大学のソシオサイエンス第13号への投稿論文を提出した。
今年は東工大の仕事が重なり、本格的な論文を書くのは無理なことが分っていたので、論文の半分の分量の研究ノートとして井上達夫先生の『他者への自由』を取り上げた短めの論考を書いた。
もっと時間があればもう少し議論の詰まったものが書けたと思うけど、9月のフィリピンのプログラムで東工大の学生たちと離れ小島のリゾートに出掛けたときもPCと井上先生の本だけは持って行って、出来る範囲で考え、出来る範囲で批判をして、その成果をまとめたもの。
 
考えてみると、2002年春に早稲田大学大学院に入学し、その冬にチャールズ・テイラーを研究しようと決心して、テイラーの本を読み出した後、確か2003年の春頃に井上達夫先生の『他者への自由』(創文社、2000年)を見つけて、読んだときの衝撃は忘れられない。
チャールズ・テイラーが提示した自己解釈的存在としての自己という自己観を換骨奪胎して、「逞しきリベラリズム」の柱に据えた井上リベラリズムの構想と論理の緻密さに完全に脱帽というのが最初の感想である。
何でテイラーなんか選んだ、全然だめじゃん、という気持ちが最初にあった。
しかし、今さら別の思想家に鞍替えも出来ないし、とテイラーを読む進めば読む進むほど、井上先生の『他者への自由』は自分の前に大きな壁として立ちはだかっていることがはっきりした。
 
2004年4月に長崎に行ったあとも常にアタマに残っていたのが『他者への自由』である。
考えてみると、是非とも東京に戻って来ようと思った気持ちの中には、井上リベラリズムと正面から対決してみたいという思いがあったことは間違いがない。
まぁ、しかし、相手が悪いよねぇ・・・。
 
と思いつつ、月日は流れ、自分の勉強も少しは進み、とうとう井上先生の本を批判しようなんて大それたことを試みるまでになった。
まぁ、中味はともかく、志はよし、というところかな。
 
ちなみに、この論文の冒頭はこんな感じ。

「井上はハーヴァード大学哲学科への留学から帰国した1989年、昭和天皇の「御不例」をめぐる異様としか言いようのない「自粛フィーヴァー」の奔流に、人々が抗うすべなく巻き込まれてゆく様を目撃し、現代日本社会の病理やディレンマと自分の法哲学的研究との接点を探る作業に重心を移したと本書の「前書き」に記している(井上達夫2000vii)。井上が昭和天皇の「御不例」を巡る国家的フィーヴァーに直面して感じた危機感は、論理化され、国民レベルで共有された公共的倫理基盤を欠く現代日本社会の危うさに対するものであろう。

井上は、現代日本における公共性の哲学としてのリベラリズムを確立すべく、コミュニタリアニズムによるリベラリズム批判に立ち向かい、さらに利益対立を超えた先鋭な価値対立という世界的現象の中で、人間が生きる上で不可欠な「必要悪」としての国家を制約する正当な原理の確立を目指し、価値の世界の構造化というアイデアを提示する。

井上は、先ず現代先進国社会において市民の活発な公共生活の場としての地域共同体が衰弱した結果、市民と国家の距離が拡大し、政治的無力感から政治に対するシニシズムとアパシーが広がり、その結果、政治は一種の観賞用スポーツと化し、民主主義の大衆社会的形骸化が進行しているという社会認識に基づき、このアパシーを引き起こした根本的な原因がリベラリズム全体の共通の前提と考えられる個人主義的な人間像・社会像にあると批判するコミュニタリアニズム対して、コミュニタリニズムの人間観と直接対決することを通じて応答しようと試みる。

第二に井上は、政治社会が多様な善き生の諸構想を追求する人々の共存を可能にする公平な枠組であることと、かかる構想を追求する人々の価値志向性を尊重することとは、いかにして両立しうるのかという問いに対して、価値の世界を言わば「構造化」することにより、この相互承認の可能性を、従ってまた善き生の諸構想の対立という形をとった価値対立の下での政治社会の公共性を基礎付けようとする(井上2000:100101)。

本研究ノートは、この井上の企てを批判的に再検討することを目指している。

第一に、井上が展開したコミュニタリアニズムの自己論と共同体観との関係に関する批判的解釈を検討する。

第二に、価値の世界を言わば「構造化」することにより、この相互承認の可能性を、従ってまた善き生の諸構想の対立という形をとった価値対立の下での政治社会の公共性を基礎付けようとする井上の構想を検討する。」

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中