上野千鶴子『生き延びるための思想』

「もし国家のために死ねないなら、おまえは日本人を降りろ」という言葉に対して、「そこまで(日本と)契約した覚えはない」と上野千鶴子さんは明快に反論する。
 
自分なら何と回答するだろう?
 
上野さんの作品は『構築主義とは何か』からずっと興味をもって読んできた。
上野さんがマスコミによく登場する人だということは、ずっと後になって知った。
赤松啓介『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』(ちくま学芸文庫)に解説を書いているのが上野さんだということを発見して、面白い人だなぁ、と思ったあと、遥洋子『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(ちくま文庫)を読んで、上野さんがマスコミに対して何故露出し続けるのか、が分ったような気がした。
 
その上野さんが「フェミニズムは女にも力がある、女も戦争に参加できる、と主張する思想のことか?」という問いを自ら立てて、この問いに答えようと試みたのが『生き延びるための思想』。
 
わたしの古い友だちで、以前、人権関係のMLに入っていて、自分の書くことが全て関係者から否定されて、書いたり発言したりすることにすっかり自信を失ってしまった人がいる。
この友だちは、もちろん、自分自身の体験から人権問題に関心を寄せていったのだけど、そういう心の襞にある個人的な事情を理解してくれるような人は、その人権サークルにはいなかったらしい。
 
ある時、差別者であった者(男?)が、次の日には被差別者の側に立たされる可能性はつねに存在する。
反対に、被差別者である者が、別の状況では、冷酷な差別者に変身するケースも日常的に存在する。
「解放とは、いま・ここでのささやかな日常の解放のつみかさねのうちにしか、遠望することができない」という上野さんの立場は、だから、たいへん共感する。
 
毎日の生活のなかで考え続け、学び続けることの醍醐味というのは、自分の私的な経験がより普遍的な原理で説明可能であったり、より広い範囲の現象に適用可能な論理を紡ぎ出す可能性を持っていることに気が付く瞬間の悦びにあるとわたしは思っているのだけど、上野さんの本はいつも、その産婆役を果たしてくれていて、私は勝手に感謝している。
 
この本も、そのような「考えるヒント」がたくさん詰まった、素敵な一冊。
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