『表現アートセラピーを応用したリサーチ手法の可能性』完成!

昨日、『表現アートセラピーを応用したリサーチ手法の可能性―人身売買被害者の〈ほんもの〉の語り』報告書の原稿を、大学の近くにある印刷会社に渡してきた。
 
来週火曜日には製本となる。
とっても楽しみ。
 
ちなみに、冒頭のサマリーはこんな感じ。(^-^)/
「私は、財団法人日本ユニセフ協会広報室長(19971月~20045月)および人身売買禁止ネットワーク(Japan Network Against Trafficking in Persons: JNATIP)運営委員として人身売買問題に取り組んできた。
 その中で、次第に人身売買被害者の声を直接聞いてみたいと考えるようになった。
 そこで考えたのが、人身売買被害者の子どもの心に映った母親の心象風景をアートセラピーの手法を援用して絵画やショートドラマの形式で具体化するという調査方法である。
200512月に、フィリピン教育演劇協会(Philippine Educational Theater Association : PETA)の創設者の一人で、教育演劇の第一人者でもあるアーニー・クロマ氏をファシリテーターにお願いし、エンタータイナーとして来日したことのあるフィリピン人女性とその子ども達を支援しているフィリピンのNGOであるDAWN(Development Action for Women Network)の協力を得て、元エンターテイナーのフィリピン人女性と日本人男性の間に生れた日比国際児を対象とするアートを応用したリサーチワークショップをマニラにおいて実施した。
 このワークショップの結果を踏まえ、20068月にはカンボジアにおいて、共同研究者の甲斐田万智子さんの紹介で、AFESIPActing for Women in Distressing Situations の運営するトム・ディー・センターに滞在する人身売買被害者を対象として、アートセラピストのリディア・タンさんをファシリテーターとするリサーチワークショップを実施した。
このようなワークショップは高度の技術と経験を要するものであること、そして人身売買の被害者は一般に深い心の傷を負っていると想定されるので、被害者との深いラポート(信頼感)がない人物がインタビューを行うことは被害者に精神的負担をかける惧れがあり、しかも十分な成果が期待できないと考えられること等を勘案した結果である。
一方、このリサーチ手法に関連する文献や臨床心理学に関する文献を読み進めたところ、一般にアートセラピーは絵画や造形、粘土、コラージュなど視覚アートを用いるものを指すことが多く、この狭義の意味でのアートセラピーに加え、ダンス・ムーブメント・セラピー(体の動きによる表現)、ミュージック・セラピー(音楽やサウンド、声による表現)、ライティング(詩や韻文など文章による表現)、ドラマセラピー(演技やパフォーマンスによる表現)など様々な手法を連続的に使用するアートセラピーは「表現アートセラピー」と呼ばれていることが分かった。そこで、私が取り組んでいるリサーチ手法を「表現アートセラピーを応用したリサーチ手法(Expressive arts applied research method)」と名付けることとした。
本報告書の構成は以下の通りである。
 第1章では、人身売買の現状を概観した上で、人身売買被害者の認定を巡る客観主義的アプローチと主観主義的アプローチの相補性を明らかにし、後者の立場に立ったリサーチ手法開発の動機を述べた。
第2章では、「表現アートセラピーを応用したリサーチ手法」の開発のプロセスおよびその特質を明らかにした。
第3章では、人身売買を「表現」の自由の侵害とする見方、および人身売買被害者の「〈ほんもの〉の語り」の意味について、チャールズ・テイラーの哲学を援用して私の解釈を提示した。
第4章と第5章は、フィリピンとカンボジアでのワークショップの記録と考察である。
第6章では、これらのリサーチワークショップの結果を踏まえて、「表現アートセラピーを応用したリサーチ手法」の長所および今後の課題を明らかにした。
このリサーチ手法の長所は、(1)本人の文化的背景を含む自己表現がそのままの形で伝達し得ること、(2)本人が言語化できない漠然とした感覚を表現する手段として言語よりも優れていること、(3)報告書の様式として言語表現よりも具体的なイメージを喚起する力に優れていること、(4)言葉だけでは到達できにくい自らの内面の豊かさや、創造性、生命力に触れ、精神的回復や癒しを得ることが出来ることが挙げられる。
一方で、(1)言語によるカウンセリングと同様に、アートセラピーも被害者が封印していたネガティブな記憶や感情を不用意に解放してしまう危険性を蔵していること、(2)精神的癒しや回復は、ワークショップや個人面談という閉ざされた空間で完結するものではなく、被害者を支えるサポート体制、被害者の生活空間など、被害者が置かれた環境に大きく左右されることに留意する必要があることが分かった。
今後の課題としては、(1)表現アートセラピーを応用したリサーチ手法と従来の言語を通じたインタビュー調査の長所と短所を明らかにする比較調査、(2)表現アートセラピーを応用したリサー手法を通じて収集したデータをGTA(グラウンデッド・セオリー・アプローチ)で分析する方法を明らかにすること、(3)それぞれの国や地域が持つ伝統芸能を応用したリサーチワークショップの可能性を探求すること、(4)多様な表現アートを連続的に用いるリサーチと単一のアートを用いるリサーチの長所と短所を明らかにすること、(5)警察、入国管理局等による人身売買被害者に対する聞き取り調査への活用、が挙げられる。
 
社会調査へアートセラピーを応用するという試みは日本では先行研究がなく、当初より試行錯誤が続いたが、(財)アジア女性交流・研究フォーラムをはじめとする関係者の皆様のご指導、ご鞭撻のお陰で、何とかこの度、報告書をまとめることが出来た。心より感謝申し上げたい。 
2007328日 森田明彦」
 
 
 
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