チャールズ・テイラー再読(2)

2年前の今頃は、テイラーの『ヘーゲル』を読んでいた。
1年前は、初めて英語でテイラーに関する論文を書いていた。
今年の連休は、もう一度、テイラーを読み直している。
 
不思議なことに、自分が研究の対象として選んだテイラー、そしてマイケル・イグナティエフは2人とも単なる書斎の研究者ではなく、実践家でもある。
 
ちなみに、テイラーが学んだオックスフォード大学では、19世紀後半にトーマス・ヒル・グリーンという思想家が出ている。
グリーンは、当時の英国思想界を支配していたベンサム、ミル等の経験主義と自由放任主義の社会思想に取って代わる英国理想主義を提唱した思想家である。
このグリーンの思想を学んだのが、戦前の東京帝国大学教授の河合栄治郎先生。
1922年11月から25年8月まで文部省在外研究員としてヨーロッパに学んだ際に、グリーンの思想に本格的に取り組み、帰国後は、自由主義思想を掲げて、当時日本に台頭してきていたマルクス主義、ファシズムと臆することなく対決。
その結果、1939年には東大を追われ、裁判にかけられ、1944年には終戦を待たずに逝去。
一日9時間とも10時間とも言われる猛勉強が命を縮めたというのが定説。
一方、グリーンの思想は、最近になって再び甦り、英国労働党の政策の思想的なバックボーンになっているという説もある。
 
それはともかく、テイラーという思想家。
オックスフォード大学留学時代、新左翼運動に関わり、"Universities and Left Review"という雑誌を刊行している。
面白いのは、この頃、同じ新左翼の関係者が"New Reasner"という雑誌が出し、この2つの雑誌は、1960年に合体して、"New Left Review"になるのだけど、"Universities and Left Review"のほうが経営的には成功していたという話。
テイラーの実務家として才能なのかぁ、と思うのは贔屓目かも知れないけど、その後のテイラーの世界的な活躍振りをみていると、必ずしも的外れでもないような気がする。
 
テイラーは、1961年にカナダに帰国、ケベック新民主党結成に参加、自らも国政選挙に何度か挑んでいる。
その頃(1964年)、出版したのが、認知心理学を主な批判対象として自然科学的方法論で人間を理解することは出来ないということを論証した"Explanation of Behavior."
 
そして、そのほぼ10年後(1975年)、大著"Hegel"を完成させている。
次の大著"Sources of the Self"が出たのが1989年。
テイラーは英語だけではなく、フランス語、ドイツ語も自由に操り、実際にそれぞれの言葉で論文も書いている。
80年代には、主に英米圏で行なわれたリベラル・コミュニタリアン論争で主導的な役割を果たし、90年代には多文化主義を巡る世界的な議論で、やはり積極的に発言している。
 
まぁ、こうして振り返ると、たいへんな思想家なんだなぁ、と今更のように思う。
わたしは、2002年の秋から冬にかけて、博士論文の対象とする思想家を探していて、結局テイラーを選んだのだけど、その頃は勿論、以上のようなバックグラウンドは知らなかった。
でも、テイラーのような素晴らしい思想家に巡り会えて、本当にラッキーだったと思う。
 
思想家としてのテイラーについては、私の知るところ、世界では英語で5冊の研究書が出ている。
それらの研究書と比較すると、わたしの本『人権をひらく―チャールズ・テイラーとの対話』は、近代人権の人間観という視点から非西欧圏に属する人間がテイラーの思想をどう見たかという点に特化しているところが、学問的には価値があると思っている。
ちなみに、この5冊の中では、Ruth Abbeyというテイラーのお弟子さんに当る女性の研究者の作品がもっとも優れていると私は思っている。
 
なにしろ、テイラーの思想は深く、広い。
 
そのテイラーでも、"Hegel"を書くのに10年以上、かかっている。
 
本当にお勉強に限りはない。
私も、10年後には"Charles Taylor"なんていうタイトルで、英語の研究書で出すことを夢に勉強を続けようと思う。
 
 
 
 
 
 
 
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