橋川文三『ナショナリズム』

初版は1968年。
かなり古い本なのだけど、今でも関係者の間では高く評価されているナショナリズムにかんする名著。

江戸時代に発展した国学が明治維新の精神的原動力になったという見解は格別新しくはないのだけど、この国学派が明治政府の開国政策によって深刻な挫折を味わったという評価は自分にとっては初めてのもの。
また、江戸時代から明治維新の時期に起きた隠岐島民の幕藩体制からの独立運動が自らを天朝の愛民と考える自覚に立って行われたという記述も興味深いと思った。

戦前の日本で盛んに喧伝された「家」制度が実は明治以前の一般民衆にはまるで無縁なものであり、この「家」制度は明治政府による臣民育成の装置であったという指摘は今では周知の事実。
しかし、橋川先生の慧眼はそこにはなくて、そういう当時の支配階級には啓蒙の対象であり、愚昧な民としか見えなかった一般民衆が一方では外国人に対して全く偏見を持たない人々であり、隠岐の島民のように自治への意欲と能力を持った人々でもあったという事実を見落とさなかった点にある。

もちろん、それでは同じ人々が第二次世界大戦直前には何故自ら戦争を求めたのか?という問いに対する回答を考える上で橋川先生の作品はヒントを与えてはくれない。

隠岐の島民のエピソードも、何故それが全国的現象にならなかったのか?という疑問が湧く。

所詮、この国には自由民主主義なんていうものは定着しないのだという諦観のほうがインテリ的な姿勢と言えるのかも知れない。

しかし、結局は、日本の人々を信じようとする橋川先生の眼差しに歴史は味方したのだ。
戦後60年間のあいだに間違いなく、日本は自由で民主主義を国是とする国となった。
 
今は、日本の近代というプロジェクトをさらに前進させるときなのだ。
 

 

名著というのはこういうものかもね。

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