森本敏『イラク戦争と自衛隊派遣』

 森本先生は、防衛大学出身で、外務省で働いていたこともある防衛問題の専門家。
昔、森本先生が野村総合研究所に在籍していた時に、何かの研究会で報告をされるのを聴いたことがある。
勉強熱心で、パワーのある研究者だなぁ、と感心した覚えがある。
 
わたしの最初の本『人権をひらく』をお送りしたときも、丁寧なお礼状をいただいた。
 
この森本先生。
もちろん、イラクへの自衛隊派遣そして憲法改正には賛成である。
 
わたしは、憲法9条の勉強をしながら、チャールズ・テイラーの「近代社会というものは、政治以外に人が生きる空間がある社会なのだ」という言葉を思い出す。
憲法9条あるいは、憲法改正自体、あるいは、その前提である「この国のかたち」の議論は、もちろん、大切なものなのだけど、それと同じくらいに自分の恋人とか家族との関係も大切であるというのが「近代」という社会の基本である。
もちろん、テイラーは、一方で市民の政治参加の大切さを繰り返し説くわけだけど、格別、国家こそ至上の存在とみなしているわけではない。
 
2003年末から2005年にかけて、日本の社会では少し表現の自由が失われた。
米国でもそうだったらしい。
それが、いま、旧に復しつつある。
考えてみれば当然で、緊急事態には軍事力以外に頼ることは出来ないけれども、長い目で見れば、平和を維持するには基本的人権の尊重される社会を維持するという毎日の営みが絶対不可欠で、そういう理念の普及こそもっとも大切であることは間違いがない。
そのために必要なのが、思想・信条の自由と表現の自由であって、何がなんでも愛国というのは、この基本的人権の思想に反している。
単純に言えば、多様な意見を受け入れる余裕とかユーモアみたいなものが、日本の社会にももっと必要ということかも知れない。
 
それはともかく、森本先生。
「イラク戦争は厳密に言えば、国連決議によって正当性を付与されたものではなく、その意味で違法である」
「米国が朝鮮半島を含む北東アジアの地域的安定を図ろうとするのは、それが米国の国益にかなうからで、日本がイラク支援に参加したからではない」
という、なかなか表立って言えないことを率直に発言する一方で、
「日本の復興支援は、国連の関与があろうがなかろうが、国益に照らして行なうべきであり、自衛隊を派遣することが国益に合致するのであれば、安保理決議にこだわらず派遣すべきである」
「日本の政策判断を、憲法と国連外交の枠内でしかとらえることのできない時代は終焉している」
と思い切った意見も明らかにしている。
 
たぶん、昔であれば、こういうタイプの知識人はリアリストと分類されるのだろうと思う。
 
こういうラインで考えた場合、日本の国益とは要するに日本の国土に暮らす人々の毎日の生活(安全と安心)が保障されることだから、日米同盟も国連もそのために有効かという目で点検することが可能になる。
そして、グローバル化の時代である現在、日本の国益は世界の平和なしには実現しないから、世界の平和への脅威に対する戦いには、「応分の貢献」をしなければならないということになる。
その際、国際貢献の手段には、軍事的手段、政治的手段、文化的手段など多様なツールがあるので、それをどう組み合わせるのが、もっとも効果的か、はそれぞれの国が考えなければいけないということになる。
したがって、選択肢は多いほうがよく、それを制限する憲法は適切な形で改正すべきということになる。
 
この見方に従うと、憲法9条を持っていることが国際社会における日本の立場を強化する価値があるのかどうか、という点検が必要だろうと思う。
これに関する立場はだいたい出尽くしていて、森本先生をはじめとする改憲派は集団的自衛権を否定する現行憲法は現在必要とされている全面的な日米協力のための障害となるので改正すべきという意見。
これに対して、すべての戦争を否定する憲法9条は世界中で平和を求める人々、国にとって重要なシンボルになっているという護憲派の意見もある。
実際に、世界の紛争地で活動してきた日本のNGOの代表の方は、「今振り返ると日本が憲法9条を持っているという事実が、紛争地で活動する日本人である自分を守ってきてくれていた」と述懐している。
また、自衛隊は合憲であるが海外派兵は違憲であるという立場でイラクへの自衛隊派遣差し止め訴訟を起こした元防衛政務次官の箕輪登さんのような立場もある。
 
この関係で、「日本がアジアの周辺諸国から武力攻撃を受けた場合を想定すると、その武力攻撃に対して、国連が措置をとるために必要な安保理決議が採択される可能性はほとんどない」という森本先生の判断には、様々な意見があるだろうけれども、無視してはいけない価値があると思う。
 
考えれば考えるほど、興味の尽きないテーマである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中