手嶋龍一『1991年 日本の敗北』

手嶋龍一さんは、NHKワシントン支局長も務めたジャーナリスト。
冷戦直前の出版された『たそがれゆく日米同盟―日本FSXを撃て―』は、日米同盟の機微を見事に描き出した名作。

その手嶋龍一さんがNHKワシントン支局長時代に体験した「湾岸戦争」と、この戦争を巡る日米交渉の様子を描いたのが『1991年 日本の敗北』。
英米仏などの先進国は、湾岸戦争の直前まで国を挙げてイラクに武器を売り込む一方で、湾岸戦争では国連のお墨付きを得た多国籍軍として、お得意先であったイラクを叩いた。
日本はその戦費として総額130億ドルを支払ったにもかかわらず、在米クウェート大使館が湾岸戦争後に米国の主要紙に掲載した感謝広告には同盟国として日本の名前が掲載されることはなかった。

「日本が軍事的オプションを持たない限り、日本外交は十全の力を発揮しえない」という日本の決意は、この「湾岸戦争」体験を得て、日本の指導者層のアタマの中に刻まれたのである。
この背景には、戦前・戦中のミリタリズムへの激しい忌避感情に基づく一国平和主義という日本の外交理念があった。
手嶋さんは、「(日本は)平和な独立国家として出発するに際して、自らの武力行使を認めず、その力の空白を埋めるため駐留アメリカ軍の圧倒的な力に依存することになった。日米安保体制の誕生がそれである。だが、日本との盟約に応じたアメリカの側は、日本の民主政治とそのシビリアン・コントロールの能力に信を置かなかった。それゆえに日米安保体制の奥深くには、将来の日本のミリタリズムの台頭を抑止する意図が影のようにつきまとって離れなかった。そして日米同盟の日本側の司祭たちにも同質の感情が伏流していたのである。湾岸戦争は彼らの最も脆弱な脇腹を衝き、彼らの標榜したパシフィズムは自壊していった」と文庫本あとがき(1996年3月11日)で書いている。

当時の栗山尚一外務事務次官が「自衛隊はモンスターである」と発言したというくだりを読むと、全く立場は違うのだけど、イラクへの自衛隊派遣差し止め訴訟を起こした元防衛政務次官の箕輪登さんの発言を思い出す。
「戦争とは血を流す政治であり、外交とは血を流さない政治である」
だから、外交を優先させるべきであり、自衛隊は専守防衛に徹底すべきであるというのが箕輪さんの立場である。
しかし、軍事力に対するシビリアンコントロールがきちんと守られるかどうかに対する根本的な不安から、軍事力の行使も視野に入れた日本外交の理念を内外に示して議論してこなかった日本は、「血を流さない政治」であるはずの外交においても十分な力を発揮できなかったというのが、手嶋さんの判断のようである。

軍事力を実際に使うということと、軍事力を含めた多様な日本外交の選択肢を予め検討するということとは別物である。
しかし、日本では戦後長い間、軍事力というものについては正面切って議論しないという「一国平和主義」の習性が身に付いてしまっていて、まともな議論を行うことが出来なかったというのは事実である。
その結果、軍事的領域については、日本として基本方針、対策(選択肢)が検討されておらず、その不備が湾岸戦争で露呈したというのが、まぁ、本当のところである。

しかし、手嶋さんは、だからといって、最近一部の人たちが主張するように軍事面での日米協力をなし崩しに進めることが望ましいと考えているわけではない。
手嶋さんの主張は、日本が国際的な紛争解決のために軍事的手段を使わずに平和的手段だけで貢献することも可能であり、そのためには日本の外交理念と優れたインテリジェンス戦略が必要であるということだろうと思う。

そのためにも、オールド・リベラルのパシフィズムはもはや通用しないことを我々は認識しなければならないというのが、手嶋さんの現状認識なのである。

宮沢元総理の言葉で言えば、「自由とか尊厳というものを一人一人の個人が大切にして、そのために戦わなければならないことを、国民がどのように自分の信念にしていくかということです。それを国で言えば、自衛のために血を流さなければいけないということで・・・」ということになるのだろうと思う。
その上で、どうしたら戦争に至らずに、あるいは軍事的選択肢を使わずに日本が国際社会に貢献できるか、を常に日本社会全体で考え、発言し、実行していくことが必要なのだろうと思う。

それでは、そういう日本を可能とする理念や行動とは何なのだろうか?

これが、8月29日のテーマでしょうね。

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