河合隼雄『神話の心理学』

今年の7月19日に逝去された河合先生の最後の作品である。
 
河合先生は、もちろん、日本におけるユング派精神分析の草分け的存在。
『中空構造日本の深層』(中公文庫、1999年)では、日本の精神構造を統合よりも均衡を目指す中空構造として把握する視点を提示し、この中空構造がグローバル化による西欧文化の日本人の心性への浸透によって危機にされされているという現状認識を示した。
この危機感は、今に至るまで日本社会の底流に根強く残っていると思う。
しかし、同時に、日本社会自体を国際化しなければ、世界から取り残されるという認識は、現在の日本社会の指導者層には共有されている。
ただ、表立って外国人受入とかを積極的に促進する発言を行なうと、日本社会の感情的反発を招くので、静かに、少しずつ日本社会を国際化していこうというのが、今の政策の基本的ポリシーだろう。
 
それはともかく、河合先生は、この最後の著書の中で、人々が近代化のなかで、自分はなぜ生きているのかという存在論的問いに対する共通の回答であった「神話」を見失っていったことが現代人の心の中にある喪失感や虚無感を生み出していることを指摘している。
その上で、河合先生は、現代において集団的で共通の神話を持つことは最早できないこと、そして、個人一人ひとりが、自分の生き方における「神話的な様相」を見つけ出さなければならないことを明らかにしている。
 
現代カナダの歴史家で、現在、カナダの国会議員をしているマイケル・イグナティエフも、何かに帰属することを求める人々のニーズが国家を対象とすることが如何に危険かを20世紀に起きた2回の世界大戦の経験の結果に言及しつつ、指摘している。
 
しかし、日本社会を見てみると、一時関心を集めた「新しい歴史教科書を作る会」の動きも、結局は大きな流れにはならなかった。
日本人は、自分だけの神話を作ることを国家に求めることは出来ないことに、ようやく、気が付き始めたところなのだろう。
 
最近、加藤周一・木下順二・丸山真男・武田晴子『日本文化のかくれた形』(岩波現代文庫)を読んだ。
その中で、丸山先生が日本は地理的に近隣の巨大文明に呑み込まれないだけの距離があったため、外来の文化を吸収しつつ、完全には同化されないで、それを変容させ、独自の日本文化に仕立てていくことが出来たのだと述べている。
その結果、日本は高度な工業社会でありながら、古い社会慣習が残る独特の社会となったのだというのが、丸山先生の解釈である。
 
しかし、この地理的距離も、近年の科学技術の発展により、急速にその価値を失いつつある。
その結果、日本社会は海外からより直接的な文化的影響を蒙るようになった。
 
日本の大学が直面している国際化という課題も、この時代的潮流の一つの現れである。
 
日本は、いま、初めて「内なる開国」に直面しているというのは、多分、正しい現状認識なのだ。
 
私も、その中で意味のある仕事をしていこうと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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