児童ポルノ(5)

20日の東工大の授業で、児童ポルノの問題を取り上げて受講者と議論してみました。
 
まず、事実関係ですが、「子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーに関する. 子どもの権利条約の選択議定書」について、日本政府は留保を行っていません。
この選択議定書第3条は、同議定書第2条(C)で定義された子どもポルノグラフィーを製造し、流通させ、配布し、輸入し、輸出し、提供し、販売し、または上記の目的で所持することを自国の刑法で全面的に対象とすることを確約することを定めたもので、日本政府は留保する必要がなかったわけです。
犬さんが言及されているのは、「サイバー犯罪防止条約」だろうと思います。
 
東工大の授業では、実在の子どもを被写体とした児童ポルノについては処罰の対象とすべしという意見が多く出されました。
実在する子どもを被写体とする児童ポルノが存在しているという事実が当該被害者に与える精神的苦痛は名誉棄損記事の所持とは比べられないほど深刻であるというのが、大方の意見でした。
私も、実在する子どもを被写体とする児童ポルノは、それ自体が特定の子どもの尊厳・権利の侵害ですから、その行為はやはり処罰の対象なのだと思います。
しかし、一方で国家権力による不当な捜査・介入は避けなければいけないという意見も出ました。
そこで一つのアイデアとして、陪審員制度のような形で、一般市民が罪状認定および量刑の判断に関与するような制度を設けるという提案が出されました。
 
これらの議論を聞いていて、私が思ったのは、児童ポルノの「意図的な」あるいは「自己の性的好奇心をみたすことを目的とする」所持について犯罪化するのであれば、(さまざまな人権委員会の対日審査の最終意見として出されている)独立した人権委員会を設置すること、さらに自由権規約委員会への人権侵害被害者による個人通報制度の実現が必要であるということです。
これは、mkさんの懸念に対する回答でもあると思います。
 
さらに、実際問題として、「意図的な所持」「自己の性的好奇心をみたす目的での所持」という定義で、警察や検察が、どのようなものを具体的に想定しているのか、を確認することも大切だと思いました。
これに関連して、Wikipediaの「児童ポルノ」では、「児童ポルノ処罰法以前より、わいせつ物頒布罪、児童福祉法、青少年条例等を根拠に未成年の性行為の撮影や、その写真・映像の流通はそれ以前から違法性を認識されており、児童ポルノ処罰法はそれらに加えて少年・少女ヌード写真集ないしビデオの流通を新たに禁止したと理解するむきは多い」と書いています。
もちろん、上記記事でも指摘しているように、「ただし、法律では前述のように「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を児童ポルノの定義に含めているため、上にあげたような摘発対象と認識されていないものと肌の露出の度合は変わらなくとも、具体的内容によって摘発対象とすることもできる」危険性はありますが、これまでの法執行状況を見る限り、日本の警察・法務省はこの法律を抑制的に執行しているように見えます。
したがって、これまで「販売目的の所持」や「流通目的の所持」で摘発されてきた実在の子どもを対象とする児童ポルノについて、「自己の好奇心をみたす目的で所持」の場合に限って拡大解釈されることは考えにくいと思います。
ただ、この解釈権を政府にのみ委ねることは適当ではないと私も考えており、その意味で独立した人権委員会や個人通報制度が必要だと思います。
 
また、より適切な「児童ポルノ」の定義を検討することは意味があると思いますが、児童ポルノとして認定される対象年齢を引き下げることが不当捜査の弊害を減らせるという根拠が私にはいま一つ理解できません。
「国連子どもの権利条約」は18歳未満の者を子どもと定め、暴力からの保護など特別に保護される権利を認めているわけですから、児童ポルノに関して、その対象を16歳以下(未満)にするということは、16歳~17歳の者から国際条約で定められた法律上の権利を剥奪するということですので、これは国際的にも物議をかもし出すのではないでしょうか。
 
なお、児童ポルノの多くは有償ではなく、無償で流通しており、また反復した所持を条件とした場合、法律改正以前に所有していた児童ポルノは処罰されなくなります。
これは、やはり問題です。
 
ということで、私の結論は、やはり、「児童ポルノ」の定義については、さらに議論を重ねて、より適切な表現を考えるという方向性には賛成ですが、実在の子どもを対象とした児童ポルノについては、「製造し、流通させ、配布し、輸入し、輸出し、提供し、販売する」目的で所持する者だけではなく、自己の性的好奇心を満たす目的で所持する者も処罰の対象とすべきということになります。
 
しかし、国会で本改正案が審議される段階となった時には、可能な限り議論を尽くすべきであるとは思います。
 
それから、創作物としての児童ポルノについては、私は与党案附則第2条に賛成です。
第二条 政府は、漫画、アニメーション、コンピュータを利用して作成された映像、外見上児童の姿態であると認められる児童以外の者の姿態を描写した写真等であって児童ポルノに類するもの(次項において「児童ポルノに類する漫画等」という。)と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進するとともに、インターネットを利用した児童ポルノに係る情報の閲覧等を制限するための措置(次項において「インターネットによる閲覧の制限」という。)に関する技術の開発の促進について十分な配慮をするものとする。
2 児童ポルノに類する漫画等の規制及びインターネットによる閲覧の制限については、この法律の施行後三年を目途として、前項に規定する調査研究及び技術の開発の状況等を勘案しつつ検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
 
以上、私の考えです。
 
 
 
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児童ポルノ(5)」への1件のフィードバック

  1. >犬さんが言及されているのは、「サイバー犯罪防止条約」だろうと思います。 すみません、記憶違いだったようです。いずれにしても、単純所持が選択議定書で求めてられて居る訳ではないと言う事です。前回の改正時には日弁連の意見書などでも『児童ポルノの定義が曖昧であり、単純所持にまで処罰を拡大することにより、処罰範囲が捜査機関の主観により拡大する危険がある。児童ポルノの流通の抑制は、営利目的による製造、販売の厳格な摘発、処罰と、教育啓発活動によるべきである。上記選択議定書にも、単純所持処罰を義務づける条項はない』と言われておりましたが、当時の懸念が無くなっているとの認識はありません。近年の冤罪事件報道等をみるかぎりでは、懸念はむしろ広がっております。>名誉棄損記事の所持とは比べられないほど深刻であるというのが、大方の意見でした。 時間が経てば影響の薄れる名誉棄損等と違い(通貨的使用やコレクション化により、時間の経過がいっそうの拡散を生む為)深刻なのは言うまでもありませんが、「児童自ら性交写真を公開」する事もあれば「死んでも暴露されたくない個人的事実」などもあるように、精神的苦痛が「比べられないほど深刻」かどうかはケースバイケースではないでしょうか。親告罪である名誉棄損と明らかに違うのは、むしろ(画像そのものが虐待の証拠なので)被害者からの申告を待つことなく「配布は虐待」だと断定出来る点だと思います。> 独立した人権委員会を設置すること、さらに自由権規約委員会への人権侵害被害者による個人通報制度の実現が必要であるということです。 そういった機関や制度が出来たなら、かなり弊害は軽減できそうですね。それによって、取り調べの透明性が担保できるならば、先生が仰ってるように所持罪を導入しても、あまり弊害が発生し無いのかもと思います。>これまでの法執行状況を見る限り、日本の警察・法務省はこの法律を抑制的に執行しているように見えます。 個人販売の事例についは定義を厳格に適用するなど、抑制的な執行となっている大企業などとのギャップもあるようです。このため、大企業や違法ポルノ店の摘発が進まないなど抑制的に執行(?)されているのは、猥褻物取締的運用によって「お目溢し」が出ているせいではないかという話もあります。さておき、一定の証拠が必要な「販売、配布目的所持」と違い、モノさえあれば済む「単純所持」ですと(自白偏重の取り調べによる)でっち上げが簡単になりそうだと思います。> 対象年齢を引き下げることが不当捜査の弊害を減らせるという根拠が私にはいま一つ理解できません。 18歳以上のポルノは合法ですが、16~17才と18才の区別は一般人に付ける事は不可能ですので、「罰則規定のあるポルノを合法のポルノと誤って所持する」リスクがあります。それを考慮して立法者が「年齢を知らずに所持してしまう事も考慮に入れた法文」を作成しても、「取締の透明性が乏しい」かつ「100%近い有罪率」という日本の現状では、捕まったが最後「18歳未満だと知っていた」との自白を強要される可能性が高いと思われます。18歳未満を違法、16歳未満を罰則とするなら、(15歳と18歳なら多少区別が付き易くなるので)「合法のポルノと誤って罰則規定のあるポルノを所持する」というリスクは(少しだけ)軽減出来ると思われます。取締の透明性が担保できた後なら、意図的譲受の処罰規定を「18歳未満」としても殆ど問題ないと思いますが「日本がそうなるのを待つわけにも行かない」でしょうから、暫定的な措置として、所持規制の年齢枠導入も考慮に入れるのも良いのではないでしょうか。> 国際的にも物議をかもし出すのではないでしょうか。 「子どもの権利条約」を批准している各国においても、性的同意年齢や児童保護の為の法律などは、事例や法体系等によって様々ですので、「児童ポルノの年齢定義はそのままに、18歳未満の所持を犯罪化したうえで、処罰規定には別途年齢枠を設ける」と言う事であれば、国際的な物議には至らないと思います。>なお、児童ポルノの多くは有償ではなく、無償で流通しており、また反復した所持を条件とした場合、法律改正以前に所有していた児童ポルノは処罰されなくなります。 有償無償とは関係なく流通行為を処罰することには賛成です。譲受には反復要件はいらないと思います。法律改正以前に所有していた児童ポルノについては違法とし破棄させるのが最良だと思います。これを処罰対象とするのは先日述べた理由により反対です。>私の結論は、やはり、「児童ポルノ」の定義については、さらに議論を重ねて、より適切な表現を考えるという方向性には賛成ですが、実在の子どもを対象とした児童ポルノについては、「製造し、流通させ、配布し、輸入し、輸出し、提供し、販売する」目的で所持する者だけではなく、自己の性的好奇心を満たす目的で所持する者も処罰の対象とすべきということになります。 「定義はより適切な方が望ましいが、現状の定義のままであっても所持も処罰すべき」と言う事でしょう? それとも「所持も処罰すべきだが、定義が適切となるまでは処罰すべきでない」という事でしょうか? 前者であるならば「現状の定義のままの(日本における法的な意味での)児童ポルノ(例えばソフトヌード系の3号ポルノ)」を、子どもが「自己の性的好奇心を満たす目的で所持」した場合も「処罰の対象とすべき」となってしまいますが……そうであるならば、反対せざるを得ません。>しかし、国会で本改正案が審議される段階となった時には、可能な限り議論を尽くすべきであるとは思います。 仰る通りですね。その際は、冤罪被害の発生リスクを抑えるというだけでなく「子ども自身も加害者となりうるんだ」という事も考えて頂ければと思います。 与党案附則第2条のについては、内容が完全に担保されるならば「その内容については賛成」ですが、「この法律の付則としては相応しくないので、新規立法によってやってほしい」との思いと「まず規制ありきの恣意的な調査がなされそうだ」という不安とがありますね。 丁寧なご回答有難うございました。

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