リベラル・コミュニタリアン論争の行方

一昨日、昨日と千葉大学で開催された公共哲学セミナー。
ハーバード大学のマイケル・サンデル教授を基調講演者とする素晴らしい学術集会でした。
バネリストとして東京大学の井上達夫教授や山脇直司教授、コミュニタリアニズムの研究で知られる菊池理夫先生が参加。
公共哲学や政治思想に関心のある人間にとっては垂涎の内容でした。
私も本当に良い勉強になりました。
特に勉強になったのは、初日のサンデル教授と井上教授の質疑応答。
一般にコミュニタリアンの代表的論客とみなされているサンデル教授と日本を代表するリベラリストである井上教授が正面から論争する場面をはじめて見たのだけど、これだけでも今回のセミナーは参加した価値があった。
井上教授は、サンデル教授のロールズ批判がロールズの議論の不徹底さをそのまま継承したため、その結論も曖昧なものに終わっており、サンデル教授の議論をロールズの議論を修正した適切な形で再構成すると、サンデル教授の考え方はリベラリズムにきわめて接近したものとして理解できるという議論を提示された。
これに対して、サンデル教授はアリストテレスを引用されて、反論、この議論は今回のセミナーの中ももっともスリリングなものだった。
 
そして、昨日の最終セッションでは、サンデル先生が私の質問を特に取り上げて下さった。
私の質問は西欧の「自己」と東アジア、特に儒教圏の「自己」の構想には違いがあるのではないか、というもの。
少し論争的にするために、Can Confucian Self be strong enough to exercise the positive liberty in the authoritaian society ?という質問を考えた。
サンデル教授は、特定の共同体に完全に位置づけられた自己(wholly situated self)は、自らの環境を反省的に振り返り、自らの状況を変えていこうとする力を持たないであろうと回答された。
これに対して、井上教授は、自らが所属する社会を批判し変革していく自己は、単に位置づけられた自己であるだけではなく、反省的に自分が所属する社会を振り返ることができる自己である必要があるが、その自己が自らの所属する社会をより良いものに変えていこうとする意思を持つのは、その自己が自分が属する社会に関するある構想にコミットメントを持つからではないかと質問された。
要するに、個人のアイデンティティは、自分が所属すると考える社会に関する理想とその理想に対するコミットメントからも形成されているわけで、これは自己を超えた価値とか目的によって決定されるものではないというのが井上教授の反論なのである。
これに対して、サンデル教授は、そのような理想とコミットメントは、その個人がどのような価値をより高く評価しているかによって決定されており、人間のコミットメントは、超越的価値・目的への評価無しには生れないと再度反論されていた。
 
また、テイラー博士も寄稿されているThe East Asian Challenge for Human Rights, Joanne R.Bauer & Daniel A. Bell eds, Cambridgge University Press, 1999に儒教と人権に関する論文を寄稿しているJoseph Chan教授(香港大学)が、儒教は権威に対する服従だけを教える教義ではなく、その思想の中には、社会を反省的に振り返ることを可能とする資源が存在すると反論されていた。
 
私は、どちらかと言うと、サンデル教授寄りの立場で、人間は何らかの超越的価値・目的にコミットしているからこそ、特定社会に対して一定のコミットメントを持つのだという風に感じている。
 
それは、ともかく、英米圏を中心に1980年代に巻き起こったリベラル・コミュニタリアン論争は、21世紀の最初の10年が終わろうとしている現在、新しい形に変容しつつあるのだということが、今回のセミナーを通じてよく分かった。
私の目からすると、コミュニタリアニズムとは、結局、個人の道徳的完成のためには政治的参加が重要であり、そのような政治参加は最高善としての徳によって導かれなければならないというアリストテレスを始祖とする共和主義ないしcivilityの哲学の変種だったという風に見える。
 
私にとっては、昨年のテイラー博士に対するインタビューと同じくらい、勉強になった素晴らしいセミナーでした。
そう言えば、テイラー博士に対する私のインタビューが掲載される予定の『環』(藤原書店)も5月上旬には発行されるそうです。
さらに勉強です。(^O^)/
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