トマス・バーネット『超大国:アメリカとブッシュ後の世界』

バーネットは、もちろん、『戦争はなぜ必要か』の著者で、アメリカでもっとも注目されている戦略研究家の一人。
 
そのバーネットが今年出版したのが、この本。
原題は"GREAT POWERS, America and the world after Bush"。
ブッシュ前大統領の功罪を明らかにし、今後の米国が取るべき戦略的選択肢を提示しもの。
バーネットの主張は明快で、人、エネルギー、投資(お金)、安全保障における流れをスムーズにすること(=グローバリゼーション)が、最終的には世界中に中産階級を増やし、自由で安全な社会を作る最善の方法であるというもの。
そして、この動き(グローバリゼーション)は、過去何百年からの世界の人々の営みの結果として具体化した現象で、アメリカから始まったが、アメリカが生み出したものではないというのが、バーネットの基本的な考え方。
そして、米国は、この4つの流れを寸断しようとする国家や集団に対して制裁を加える力を保持する(リバイアサン)と同時に、システムが順調に動くようにメインテナンスするシスアドの中枢的な役割を担うべきであるとバーネットは主張する。
 
グローバリゼーションは世界の趨勢であり、米国が生み出し世界に広げようとしているイデオロギーではないという見方は、最近何でも自分の不幸を他人のせいにしたがる日本人にとっては、傾聴するに値する。
もちろん、人は物ではないので、そう簡単に国境を越えられるものではない。
しかし、世銀の報告にもあるように、最近は途上国に対する政府開発援助の総額よりも、海外出稼ぎ者による母国への送金の総額のほうが大きい時代である。
そして、こちらのほうがはるかに大切に効率的に使われるだろうと思われる。
ちなみに、昨年来の経済不況で、出稼ぎ者による送金額が減っていると思って、この春来日したフィリピン政府の方に訊いてみたら、最近はきちんと職業訓練を受けた人間を海外に送り出しているので、不況になってもすぐに首を切られるということはなく、したがって、送金額も減少は見られないとのこと。
また、お金が勝手に動き回るのも、いろいろなトラブルを巻き起こす。
化石燃料は有限なので、自由に使えば良いというものでもない。
 
しかし、きちんとしたルールの下で安全な世界を実現し、一人でも多くの人間が安心して世界中を動き回り働けるような社会が実現すれば、人々は単に経済的な意味だけではなく、いろいろな面でより豊かになっていくことは間違いない。
 
最近の日本では、昨年来の金融不況のショックで、グローバリゼーション=悪という短絡的な見方が少なくないけれど、この流れ自体は止められないと私も思っている。
 
それはともかく、バーネットの最新著。
9・11以降、米中で深刻な対立が生れなかったのは、ブッシュ・チェイニー政権の功績であると認めている。
また、ロシアのプーチンが権力集中に成功して、ロシアを崩壊から救ったことも評価している。
さらに、米国が京都議定書の批准を遅らせたことは、世界が中国やインドを温室効果ガス削減対象から除外することの愚かさを認識するための時間を与えたと評価している。
そして、これは最も議論のあるところだろうけれど、中東が現在、総体として安定し繁栄に向っていることも、ブッシュ・チェイニー政権のイラク侵攻の結果であると認めている。
 
もちろん、これで終われば、この本の意義はない。
バーネットは、ブッシュ・チェイニー政権の7つの罪を挙げている。
その第一が、(冷戦時代のロシアと同様な)仮想敵対国の出現を想定して、必要に応じて先制攻撃や単独行動主義を用いることも視野に入れて、米国の軍事的優越性を維持し続けようとするその世界戦略である。
そして、バーネットは、この戦略的思考は常に勢力均衡を前提とし、90年代、日本がそのための叩かれ役を演じたと書いている。
これだけで、日本のナショナリストは逆上しそうな話である。
しかし、日本における戦略論の草分けで外務省の大先輩である岡崎久彦さんも、アングロサクソンというのは、もともとそういう人種で、時々とてつもなく身勝手なこともやるが、結局、世界全体のことを考えているので、そこから離れてはいけないと意味の話を書いておられた。
もっとも、岡崎さんの日米同盟一辺倒の戦略論について、元部下だった孫崎亨さんのような批判もある。
 
まもなく総選挙も終わり、新しい政権の下で、新しい日本の「かたち」として何を目指すのか、はっきりしてくると思う。
 
楽しみなことです。スマイル
 
 
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