9・11は謀略だったのか?

昨日、孫崎亨『日米同盟の正体―迷走する安全保障』講談社現代新書(講談社、2009年3月)をやっときちんと読み通すことができた。
 
孫崎さんは、1943年満州生れ。1966年に東大法学部中退で外務省に入省され、その後もハーバード大学国際問題研究所の研究員、外務省国際情報局長、駐イラン大使を歴任した超エリートで、2002年より防衛大学教授を務められた方。
孫崎さんは、外国による占領という経験をほとんど持たない日本人は「自らが国を守らなければ大変な事態が訪れるという実感がない」、そして「いまの日本では、右であれ左であれ、官であれ民であれ、公的であれ私的であれ、ほとんどの組織、集団で、その指導者と異なる考えを持つなら組織から出てくださいという論理が横行し、国民はそれにさしたる疑問を持たない」という現状に危機感を覚えて、この本を書いたのだそうです。
 
孫崎さんは、日本の外交と安全保障を考える上で、米国の考え方、行動、世界戦略をきちんと把握することの重要性を繰り返し指摘している。
さらに、現在の世界では謀略を含む国家間の戦いが続いているという事実を、米国の実際の対日戦略に基づいて丁寧に説明している。
例えば、北方領土問題。
米国政府は千島列島の範囲を曖昧にしておくことで、日本とソ連の対立を永続的なものにしておこうとしたが、1987年頃からソ連崩壊が確実になったので、対ロシア支援を決意、日本から経済援助を引き出すために北方領土問題の解決に前向きになった。
しかし、2000年に誕生したプーチン政権下でロシアは再び自主独立路線をとり、米国務省内でも北方領土問題の解決を支援するという考えは消滅した。
 
孫崎さんは、冷戦後の米国戦略を以下のとおり説明している。
ソ連の脅威が失われたあと、米国には軍事力を削減するか、新たな軍事的脅威を見つけて従来路線を維持するか、という2つの選択肢があった。
米国は後者を選び、(1)唯一の超大国としての米国の地位を、十分な軍事力で、永久化させる、(2)この目的達成のため、集団的国際主義は排除する。危機において米国が単独で行動できるようにする、(3)同盟国の日本にはこの体制に協力させる、という方針を1992年頃に決めた。
その結果、経済的に当時最大の脅威であった日本をどのように抑え込み、新たな米国戦略に組み込むか、という点が対日戦略の中心となった。
米国政府は、当時の日本経済の強みは政界・官界・経済界の共同体的システムにあると見て、このシステム破壊を目指し、特に国益を名目に米国に抵抗する経済官庁の排除を目指した。
孫崎さんは、はっきり書いていないが、1996年に始まった日本国内での官僚叩きは、この流れにあると見ているようだ。
 
孫崎さんは、9・11同時多発テロを巡る米国政府の動きも取り上げている。
陰謀には2種類ある。第一が、敵になりすまして行動し、結果を敵になすりつける偽旗工作。第二が、敵が行動に出るとき、敵の行動を誘導して間接的にその実現を支援するもので、真珠湾攻撃のようなケースである。
孫崎さんは、CIAやFBIが9・11同時多発テロの1カ月前にはビン・ラディン・グループや支援者が米国内で爆薬を使った攻撃を考えているという情報を大統領に報告していたにもかかわらず、米国政府は具体的な対策と取らなかったこと、9・11同時多発テロによって、国内に”旋風のような愛国心”が生じて、米国政府はアフガニスタン、イラクへの軍事行動に突入できたという事実を指摘している。
 
それでは、米国はなぜ、そこまでして中東に介入しようとしたのだろうか?
孫崎さんは、中東の石油資源を確保することが米国の対中東政策の主要な目標であるという俗説を排して、米国が中東に介入するのは、国内のユダヤロビーの働きかけによるものだという見方を提示する。
孫崎さんは、ここで2002年1月29日の大統領一般教書の以下の部分を引用している。
「ハマスやヒズボラ、イスラム聖戦、ジャイシェ・ムハマドなどのテロリストの地下組織は、人里離れたジャングルや砂漠で活動し、また大都市の中心部にも潜んでいる」
要するに、9・11同時多発テロの主犯であるアルカイーダとの戦いのはずであった米国の軍事行動がいつのまにか、イスラエルに脅威を及ぼすテロリスト集団(と米国政府が考える)との戦いにすり替わっているというのが、孫崎さんの分析なのだ。
 
私の見方は、孫崎さんとは少し違う。
米国政府が冷戦後、旧ソ連に代わる仮想的敵国を探して、北朝鮮、イラク、イランに辿り着いたというのは事実だろうと思う。
しかし、米国がこの現状認識に基づいて、1992年には新しい世界戦略を確立したというのは事実に反すると思う。
トマス・バーネットが指摘するように、米国は、そして、日本も冷戦後の新しい世界に相応しい世界戦略を模索中というのがより実態に合っていると思う。
また、米国の対中東戦略が米国内のユダヤロビーによって大きく影響を受けているという見方も事実に反している。
ユダヤロビーは一定の影響力を持っているけれど、同時に限界もある。
何よりも、米国がイスラエルを支持している背景には、イスラエルが世界でも指折りの民主主義国家であるという事実がある。
米国は、基本的人権の尊重と自由民主主義に基づいて作られた国家であって、この2つを世界に普及させることは、彼らのDNAなのだというのが、私の見方である。
自由民主主義にあまり思い入れのない日本人には、この点が見えてこないことが多いように思う。
また、日本の知識人の中には、90年代以降の日本経済の凋落を米国による日本バッシングに求める人たちが少なくないけれど、これも間違いだと思う。
日本は、80年代には、すでに新しい社会・経済体制への転換が必要だったのであり、そのためには当時の官政財共同体はいずれにせよ変容しなければならなかったのだ。
 
私の考えでは、今の日本に求められていることは、孫崎さんも指摘しているように、「日本のために」死ぬ覚悟のある自衛隊員に対して「死を賭すに悔いのない戦略」を作ることであり、そのための国家としての目標を明確に定めることである。
そして、日本の「国の目標」は自由民主主義と人権尊重の原則をナショナルアイデンティティにきちんと取り込み、近隣諸国とその実現のために協力していくこと以外にはない。
日本が自由民主主義をほんとうに自らのナショナルアイデンティティにすることができれば、米国に対して、「ノー」ということも出来るようになる。
日米関係の最大の課題は、米国が日本は自分たちと同じ価値観を共有しているとは、本当には思っていないことである。
 
実は東南アジア諸国も同じ眼で日本を注視している。
私の知り合いの報道関係の方は、最近、東南アジア諸国の駐日大使館の関係者と会ったときの経験を以下の通り知らせてきてくれた。
「政権交代、民主党の外交政策はどのようにご覧になりますか。今日も東南アジアの大使館関係者と会う機会がありましたが、『東アジア共同体は聞こえがいいが、具体的な中身が見えない』『実は外交どころではないのではないだろうか』とそれぞれの本国の受け止めの一端も垣間見えご指摘のようなアジアとの関係構築を考える上で不安は募ります」
 
自由民主主義国家とはどうあるべきか、具体的な行動を通じて日本は世界に示す時なのでしょうね。
まぁ、当然です。
自由民主主義国家になって、もう60数年ですから。スマイル
 
 
 
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