賀川豊彦『友愛の政治経済学』(日本生活協同組合連合会出版部、2009年6月)

先週、京都の龍谷大学で開催された第45回経済社会学会の特別講演会で、野尻武敏先生がご自身が監修された賀川豊彦『友愛の政治経済学(Brotherhood Economics)』についてお話をされた。
 
この本は、賀川豊彦先生が、1936年4月、当時ニューディール政策を推進していた米国政府の招聘で渡米した際に、コールゲート・ロチェスター神学校のラウシェンブッシュ基金の招きで行った「キリスト教的友愛と経済再建」というお題の講演を収録したもので、原著はもちろん英語。
そのあと、ドイツ語、フランス語、イタリア語、さらにトルコ語、中国語、ヘブライ度、ヒンディー語など17カ国語に訳され、25カ国で出版されたという、世界的ベストセラー。
ところが、日本では永らく出版されなかったそうです。
それが、このたび73年ぶりに日本で翻訳、出版される運びとなり、今年6月25日に日本生活協同組合連合会より公刊されました。
 
賀川先生は、もちろん、日本の協同組合運動の創始者であり、世界的に有名なキリスト教社会運動家です。
私は、修士論文で賀川先生が創始された東京都墨田区の中之郷信用組合を取り上げ、当時の総務部長さんにインタビューするために、中之郷信用組合に伺ったことがあります。
その総務部長さんによると、賀川先生という方はまったく気取らない人柄で、いつも一張羅の背広を着て、中之郷信用組合に通ってきておられたそうです。
 
賀川先生は22歳のとき(1909年)、神戸の新川と呼ばれるスラム街に入り、救貧と伝道に取り組まれ、5年後に米国プリンストン大学に留学(1914年~1917年)、帰国後は防貧を目指した社会変革運動に取り組むようになり、労働運動、農民運動、協同組合運動、普選運動、平和運動にかかわる一方で、300冊を超える著書を執筆しています。
 
この本のもととなった講演を行った1935年の渡米の際には、半年間で500回近い講演を行い、聴衆は100万人を超えたそうです。
一日3回以上の講演をこなしたわけで、持病をかかえておられたことから推察して、超人的な体力の持ち主というよりは、超人的な気力の持ち主であったのだと思います。
 
賀川先生の思想家、活動家としての特色はキリスト教精神に基づく独自の体系的な思想に基づきつつ、科学的・合理的な社会改革の具体的な方法論を考え、実際に実践した点にあると思います。
思想家という人種は一般的に非現実的とか、実務能力に欠けると思われがちですが、賀川先生はそのような机上の空論を玩ぶ象牙の塔の書斎人ではありませんでした。
 
もちろん、現代にもチャールズ・テイラーとかマイケル・イグナティエフのような思想家であると同時に社会活動家・政治家である人々は少なくありません。
ただ、賀川先生の場合は、島国日本に生まれながら、その視野が常に世界に向けられ、かつ国際的な動きを常に踏まえて、行動・発言されているところが、特に日本人としては稀有の存在だと感じます。
 
また、1989年の冷戦終結により、イデオロギーそして社会体制としてのコミュニズムに対する信用が地に落ちた結果、私たちはなんとなく、残された選択肢は資本主義しかないと思いがちですが、賀川先生は1930年代のロシアのコミュニズム、ドイツの社会民主主義、英国の労働党政治、そしてアメリカのニューディール政策も経済格差の拡大、一部の人々への富の集中という資本主義の弊害を除去することはできなかったと批判して、唯物論的共産主義でもなく、政治的社会主義でもない、信条主義的キリスト教を超えた、新たな道を探す必要があるとして、協同組合国家論を提示します。
資本主義経済に対して、これだけ独自な、そして体系的かつ実践的な代替案を提示した思想家は日本にはいないように思います。
私は、河合栄次郎先生を尊敬していますが、河合先生も賀川先生のように具体的でかつ世界平和のためのシステムまで包含した思想体系は構築されていないと思います。
 
市場メカニズムの有効性を生かしつつ、効率的で公正な行政府を実現し、自立的でかつ協同的な市民セクターを育てることが、これからの日本の課題ですが、賀川先生の協同組合論は、これからの日本の「かたち」を考える上で、最高のヒントを与えてくれるように思います。
 
 
 
 
 
 
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